読後に余韻が残る一の悲劇

ミステリー小説には誘拐ものというジャンルがあります。実際の誘拐は成功率が低く、まず犯人の思惑通りには行きません。だからこそミステリー作家たちはお話の中で成功する誘拐ものを書くのです。

そんな誘拐ものの中で私が最も好きな作品は、法月綸太郎氏の一の悲劇です。この話の軸はもちろん誘拐事件なのですが、その裏には一筋縄ではいかない謎がいろいろと隠されているのです。

まずはある一家の子供が誘拐されたことから物語は始まるのですが、なんとそれは間違い誘拐だったのです。実際に誘拐されたのはその一家の子供ではなく、隣人の子供でした。ここだけ見れば確かに表向きは犯人が間違えて子供をさらってしまったように見えます。ですがもしそれがわざと間違えていたのだとしたら?最初から隣人の子供を狙っていたのだとしたら?一体どうなるでしょう。誘拐そのものの様相ががらりと変わってしまいます。

果たして真相はただの間違い誘拐だったのか、それともすべてが犯人の計算され尽くした犯罪なのかといったところがこの作品の見どころの一つです。

そしてこの作品がすごいのは最後の真相が分かってからもなお後を引く余韻です。フィクションだと分かっていながらも読み終えた後にずっと心に引っ掛かりがあるのです。私などこの一の悲劇を読み終えた後、しばらくは別の小説を読む気にもなれなかったほどいい意味でダメージを受けたほどです。それほど読後に余韻を残すストーリーなのです。